労災保険が利用できる場合は、健康保険法55条1項により、健康保険は利用できません。したがって、労災保険を利用して治療を受けることになります。
(健康保険法)
第五十五条 被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない
労災保険への切替は可能です。しかし、療養(補償)給付が認められるか否かは、労働基準監督署の判断次第となります。
できます。
確かに、厚生労働省は「労災保険の給付と自賠責保険の損害賠償額の支払との先後の調整については、)との通達を出しています。
しかし、厚労省は、労災先行を希望する場合には、労災保険給付を自賠先保険による保険金の支払いよりも先行をさせています。
①交通事故につき被害者の過失割合が大きい場合、
②治療費が多額になることが想定される場合、
③加害者が任意保険に加入していない場合、
④加害者が自己に過失はないと主張している場合
などは、特に、労災保険を先に利用すべきと考えます。
①及び④について
労災保険を利用する場合には、交通事故の被害者に過失があっても、過失相殺されません。したがって、労災を利用すべきといえます。
②及び③について
労災保険では、治療費が全額、労災保険によって支払われます。したがって、自賠責保険の傷害の保険金額の上限である120万円を有効に利用できます。したがって、労災を利用すべきといえます。
①~④以外の場合であっても、⑤休業損害が発生する場合には、労災保険を利用したほうが賠償額をより高額に得ることができます。つまり、労災保険では、休業損害は、平均賃金の60%に相当する休業補償給付と、20%に相当する休業特別支給金の支給を受けることができます。そして、加害者側の保険(加害者側が保険を支払っている任意保険や自賠責保険)から受け取れる休業損害の賠償金は、休業補償給付が控除されますが、休業特別支給金は控除されません。よって、実際の休業による損害よりも多くの金額が得ることができます。
1 労災保険を利用しない場合
⑴ 被害者が受け取る賠償額
(治療費120万+慰謝料100万+休業損害80万)×過失相殺0.75=225万
⑵ 病院に支払う治療費
120万円を自賠責保険により支払う
⑶ 自賠責保険による得られる賠償額
0円∵治療費の支払いにより上限額120万を使い切っている
⑷ 被害者が加害者から回収しなければならない金額
105万円(225万ー120万円)
2 労災保険を利用した場合
⑴ 被害者が受け取る賠償額
(治療費120万+慰謝料100万+休業損害80万)×過失相殺0.75=225万
⑵ 病院に支払う治療費
120万を労災保険により支払う
⑶ 休業損害
労災保険による得られる賠償額
80万×0.6(休業補償給付)+80万×0.2(休業特別支給金)=64万(∵労災保険は過失相殺されない)
⑷ 自賠責保険より得られる賠償額
慰謝料100万+休業損害80万ー既払い金48万(休業損害のうち休業補償給付額。休業特別支給金16万は損益相殺されない)=132万のうち限度額120万
⑸ 被害者が加害者から回収しなければならない金額
12万(132万ー120万)