第三者行為災害Q&A


Q 通勤災害は、第三者行為災害になると聞きました。第三者行為災害の意味を教えてください

 「第三者行為災害」とは、労災保険給付の原因である災害が第三者の行為などによって生じたものです。

具体的には、

①交通事故(自損事故の場合を除く)②他人から暴行を受けた場合③他人が飼育・管理する動物により負傷した場合等をいいます。

第三者行為災害の場合には、第三者が、労災保険の受給権者である被災労働者または遺族(以下「被災者等」といいま す。)に対して、損害賠償の義務を有しているものをいいます。


Q 第三者災害を受けた被災者等は、誰に対して、金銭等の請求をすることができるのでしょうか?

 第三者行為災害に受けた被災者等は、第三者に対し損害賠償請求権をすると同時に、労災保険に対しても給付請求権をすることできます。


Q 第三者に対する損害賠償請求権と 労災保険に対する給付請求権は、どのような関係になるのでしょうか?

 同一の事由について、第三者に対する損害賠償請求権と労災保険に対する給付請求権の両者から 損害のてん補を受けることになれば、実際の損害額より多くが支払われ不合理です。

 また、本来被災者等への損害のてん補は、政府によってではなく、災害の原因となった加害行為などに基づき損害賠 償責任を負う第三者が最終的には負担すべきものであると考えられます。  

 このため、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)第12条の4において、第三者行為災害に関する労災保険給付と民事損害賠償との支給調整をしています。


Q  第三者行為災害に関する労災保険給付と民事損害賠償は、どのように支給調整されるのでしょうか?

① 先に政府が労災保険給付をしたとき

政府は、被災者等が第三者に対して有する損害賠償請求権を労災保険給付の価額の限度で取得します(政府が取得した損害賠償請求権を行使することを「求償」といいます)。つまり、災害にあった労働者に給付された労災保険給付分だけ、労災保険(政府)が第三者に請求をすることになります。

② 被災者等が第三者から先に損害賠償を受けた(自動車事故の場合は自賠責保険などの支払い)とき、政府は、その価額の限度で労災保険給付をしないことができます(「控除」)。つまり、労災保険から支給される保険給付額から、第三者が労働者に対して支払った金額を控除することになります。


Q 第三者行為災害により労災給付を受けようとする場合に、提出する書類を教えてください。

 被災者等が第三者行為災害について労災保険給付を受けようとする場合には、被災者の所属する事業場を管轄する労働基準監督署に、

労災保険給付に関する請求書に加えて、「第三者行為災害届」を提出する必要があります。

第三者行為災害届は、原則として労災保険給付に関する請求書に先立って、または請求書と同時に提出する必要があります。  

 なお、正当な理由なく「第三者行為災害届」を提出しない場合には、労災保険給付が一時差し止められることがあります。

 また、加害者が不明である場合には、「相手方不明」として第三者行為災害届の提出が必要となります。これに対して、たとえば駅や電車内の人混みでケガをしたなど、「人が大勢いて加害者の特定が難しい」場合には、第三者行為災害届の提出は必要ありません。


Q  自動車事故による通勤災害の場合、労災保険給付と自賠責保険等(自動車損害賠償責任保険または自動車損害賠償責任共済)による保険金支払いは、どのように処理されるのでしょうか?

 自動車事故の場合、労災保険給付と自賠責保険等(自動車損害賠償責任保険または自動車損害賠償責任共済)による保険金支払いのどちらを先に受けるかについては、被災者等が自由に選べます。 ただ、どちらか一方を先に受けることになります。

 ①自賠責保険等からの保険金を先に受けた場合(「自賠先行」)

自賠責保険等から支払われた保険金のうち、同一の事由によるものについては労災保険給付から控除されます。したがって、労災保険と同一の事由の損害項目については、自賠責保険等からの支払が完了するまでの間は、労災保険の給付が行われないことがあります。

自賠責保険等の給付が終わった後に、支払われた金額以上に労災保険から給付がある場合に差額が支給されます。

 ②労災保険給付を先に受けた場合(「労災先行」)

同一の事由について自賠責保険等からの支払いを受けることはできません。つまり、「労災保険から支給された金額」と「自賠責保険等から支給されるはずの金額」との差額をあとから自賠責保険等から支払いを受けることになります

 なお、労災保険の休業給付は、事故にあった時点の平均賃金の8割が支給されますが、この8割のうち2割は休業特別支給金といわれるものです。当該支給金は、自賠責保険等からの給付金額が労災保険の休業給付の金額を上回っていても受け取ることができます。


Q 加害者の保険会社から示談を持ち掛けられています。示談とは何のことでしょうか?

 示談とは、当事者同士が損害賠償額について双方の合意に基づいて早期に解決するため、話し合いにより互いに譲歩し、互いに納得し得る損害賠償額にて合意をすることです。


Q 示談をする際の注意点を教えてください。

 被災者等と第三者との間で、被災者等が受け取る全ての損害賠償についての示談(いわゆる全部示談)が、両当事者の真意により成立し、被災者等が示談内容以外の損害賠償の請求権を放棄した場合、政府は、原則として示談成立以後の労災保険給付を行わないこととなっています。

 当事者間で「○○万円の損害額を受け取った後は、以後の全ての損害についての請求権を放棄する」旨の示談が両当事者の真意により成立した場合には、被災者等が、「その示談の効力発生日(損害賠償請求権を放棄する日)以後の療養や休業」に関して労災保険給付の請求を行ったとしても、労災保険からは原則として給付をされません。

 これに対して、「すでに労災保険給付が行われている期間より前の日」を示談の効力発生日とする真正な示談を結んだ場合、本来労災保険給付すべきでない期間について保険給付をしている状況が生じることとなるため、当該給付分については、政府に既に受領した保険金の返還をしなければならないことがあり得ます。

 以上から、示談を行う際には、

①示談内容が、労災保険給付を含む全損害の填補を目的とするものであるか否かを、示談の相手方に対して明確にすること

②示談内容とは別に、例えば、治療費や休業損害に関する部分について、示談締結後に別途労災保険に請求する予定である場合は、その内容を示談書に明示すること

等に注意する必要があります。


Q 派遣労働者が、派遣先が労働災害に被災をしました。この場合でも、第三者行為災害になる場合があるのでしょうか?

 派遣労働者に発生した労働災害で、第三者の直接の加害行為がない場合でも、以下の①・ ②の両方に該当する場合には、派遣先事業主を第三者とする第三者行為災害として取り扱われます。

① 派遣労働者の被った災害について、派遣先事業主の安全衛生法令違反が認められる場合

② 上記①の安全衛生法令違反が、災害の直接原因となったと認められる場合